多田政一博士の著書から(98) 1935年(昭和10年)刊行「綜統醫學提唱論」より
「綜統醫學提唱論」は、当法人の名誉理事長である多田政一博士が、東京帝国大学卒業直後の1935年(昭和10年)に刊行された著書です。現代医学に疑問をもった多田博士が、西洋医学と東洋医学を綜合・統一的にとらえ創設した綜統医学(現在の生活医学)について書かれています。
当記事では、「綜統醫學提唱論」を誰でも読めるよう、田中敏彦理事(薬剤師/均整師(整体師))が所感をまとめてくださっています。現代の医療や病気治療・予防においても重要な内容となっていますので、ぜひご一読ください。
※2025年まで発行していた機関紙「生活医学ジャーナル」Vol.766掲載内容の続きの内容になります。生活医学ジャーナルの内容は、今後オープン予定の会員専用ページでご覧いただけます。
【第98回】第三篇「全體動的病原學」提唱
(二)消化器病について(2)
多田政一博士の原文
然(しか)らばかうした「鬱血(うっけつ)」乃至(ないし)「貧血」が何故胃に成立するかは、他の循環上の末梢血管が靜脈(じょうみゃく)歸環流(きかんりゅう)過不及的不正のため動脈側にまで不純なる血液の過不及を生(しょう)ずるならば(若(も)しこの際血液デポート器官肝臟(かんぞう)、皮膚(ひふ)、脾臟(ひぞう)の適應(てきおう)調整力が發揮(はっき)低調に立ち至ってをる場合は特に)容易に招來(しょうらい)されるであらう。
かくした全體(ぜんたい)的失調にも拘(かか)わらず、この胃の現象のみに瞠目(どうもく)されて、胃酸の奪取(だっしゅ)のために重曹(じゅうそう)連用の浮身をやつすならば何等(なんら)病原を治めた事にはなるまい。なんとなれば胃酸過多は病原ではなく全體的失調の結果である。
さればM教授の臨床録に曰(いわ)く、
・・・重曹について特に注意致しますが、果たして之(これ)が胃潰瘍の時に用いて効果あるや否やであります。胃潰瘍の患者で、今迄福岡、大阪、京都の各病院を經(へ)て遂に東京へ來(き)た者がありました。既に大阪では手術を進められた位で非常な難症でありましたが、東京に參(まい)り重曹を廃しただけで治癒(ちゆ)して、今日尚健康に働いておる者もあります。重曹は一時的中和劑(ちゅうわざい)に過ぎないのであります・・・云々(うんぬん)。
これは治療か起病か疑はしくなる醫術(いじゅつ)の例と見られる。こうした大きな見當(けんとう)違ひの科学は局所觀(きょくしょかん)より生まれる事を知られたい。
一方、胃酸過多症とは必ず胃内の酸度が高いことを必要とせずに起こる物である。卽(すなわ)ち胃の酸度は少なくとも腸のアルカリ度が胃の酸度に比して過少の場合、卽ち胃の酸度が腸に比して多い時には同様な病人が成立するのである。
例へば便秘で腸がアルカリ度を高めると胃酸過多症の症狀が出てくるのであり、反對(はんたい)に下痢になると糞便(ふんべん)は酸性となって、排出される事には胃酸缺乏(けつぼう)症が成立するのである。
而(しこう)してこの兩者(りょうしゃ)は何(いず)れもが結果と原因の兩役(りょうやく)を兼ねるのであり、便秘が胃酸過多を引き起こすとも云(い)へないし又胃酸過多が便秘を引き起こすとも云へないのであり、消化系全體(ぜんたい)平衡(へいこう)の失調が同期的に酸過多と、便秘を引き起こしてくると、次に遂に窮(きゅう)すれば「代償過程」が全體力の下に起こって、下痢が伴ひ、 胃酸過多を逆の方向へと引き戻さそうとするのである。
故(ゆえ)に危険なる症狀(しょうじょう)、それは下痢と便秘とが交互に去來(きょらい)する時であり、癌(がん)の前驅(ぜんく)症狀にこの現象をよく見るは衆知の事實(じじつ)に他ならない。
さて前述のこうした、不正なる貧血或(ある)は欝血の持續(じぞく)が續(つづ)けば胃に於ては食物は停滞し、胃は重たげに下垂し弛緩(しかん)し、遂にはくり返される刺戟(しげき)のために「胃潰瘍」が發生(はっせい)して、その六十%は更に增惡(ぞうお)する「胃癌」にしてやられるであらう。
かうした過程が種々多様に現はれる所に「胃擴(いかく)張(ちょう)」あり「胃無力症」あり「胃炎」ありとせば、病名は病人のある時代の狀態を分類したにすぎない。
解説≪田中敏彦理事の所感≫
全体の考え方から胃の不調を考えてみたいと思います。
- 胃の病気は胃だけを見ても治らない
- 胃酸は敵ではなく、体のサイン
- 本当の原因は体全体のバランスの崩れ
- 症状を消すより、体の流れを整えることが大切
多田博士が一番言いたいのは、
「胃の病気は、胃だけの問題ではなく、体全体の血の流れやバランスの乱れから起こる」
ということだと思います。
血の流れが乱れると、なぜ胃が悪くなるのでしょうか?
体の中では、血液が
動脈 → 毛細血管 → 静脈 → 心臓
という流れで、全身をめぐっています。
ところが、血液がうまく心臓に戻らないことや、肝臓・皮膚・脾臓などの「血をためて調整する場所(血液デポート器官)」がうまく働かないなどがあると、血が一部にたまりすぎたり、逆に足りなくなったりします。
この影響が、胃にも起こると
- 血が多すぎる → うっ血
- 血が少なすぎる → 貧血
という状態になります。
胃酸が多いのは「原因」ではない!!
多くの人は「胃酸が多いから胃が悪くなる」と思っていますが、胃酸が多いのは“結果”であって、原因ではないのです。
体全体のバランスが崩れた結果として、胃酸が増えているだけなのです。
重曹で胃酸を消しても治らないわけ!!
重曹は、酸を一時的に中和します。
だから「飲むと楽になる」ことはあります。
でもそれは煙を消して火を消したつもりになるようなものであり、火元(体全体の乱れ)を治していないので、本当の治療にはなりません。
胃と腸はセットで考える!!
胃の調子は、腸とも深く関係しています。
- 腸がアルカリ性に傾きすぎる(便秘)と胃酸過多のような症状が出る
- 下痢になると便が酸性になる→ 胃酸が足りない状態になる
ここで大事なのは、どちらが原因かということではく、「消化器全体のバランスの崩れ」が根底にあるということです。
体は最後に「代償」しようとする!!
体は賢いので、バランスが崩れすぎると[便秘 → 下痢][胃酸過多 → 胃酸不足]
というふうに、逆方向に戻そうとする力(代償)が働きます。
特に注意が必要なのは!!
便秘と下痢が交互に起こる状態です。
最終的に胃はどうなるのか
血の流れの悪さが続くと、食べ物が胃にたまったり、胃が重くなって下がったりして、その結果として、胃炎、胃潰瘍、さらに進むと胃がんとなる可能性が高くなります。
病名は「ある時点の状態」に名前をつけただけすぎないのです。
何度も言いますが、本当の問題は、体全体の働きが乱れていることなのです。

